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最高裁判所大法廷 昭和23年(オ)63号 判決 1949年6月15日

主文

原判決及び第一審判決を破毀する。

本件仮処申請を却下する。

訴訟費用のうち申請人株式会社対山荘と被申請人等との間に生じた分は申請人株式会社対山荘の負担とし、申請人高根正昭及び同高根ユキと被申請人等のと間に生じた分はこれを三分しその二を同申請人の負担とし、その余を被申請人等の負担とする。

理由

本件上告理由は末尾添付の別紙記載のとおりである。

日本国憲法および裁判所法の施行に伴い、裁判所は憲法に特別の定めのある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判する権限を有することとなつたので、いわゆる行政事件は裁判所の所管するところとなり、民事訴訟法の定める規定により審判されるに至つた。したがつて、民事訴訟法に定める仮処分に関する規定もまた原則として行政事件に関する訴訟において適用されることゝなつたのである。

しかしながら、行政事件は、行政処分に基いて生ずる権利関係に関する争を内容とするものであり、その裁判は直接公共の福祉に重大な影響を及ぼすことが多いから、行政事件訴訟特例法(以下特例法と略称する)は、行政事件の訴訟手続に関する特則を定め、行政庁の処分については、仮処分に関する民事訴訟法の規定はこれを適用しないこととし、たゞ本訴の提起があつた場合に一定の条件の下に行政処分の執行を停止することができることを規定するに止めたのである。(特例法第一〇条)。そして、特例法は昭和二三年七月一五日から施行されたのであるが(同法附則第一項)この法律は、この法律施行前に生じた事項にも適用され、ただ民事訴訟法および昭和二二年法律第七五号によつて生じた効力を妨げないものと規定しているのである。(同法附則第二項)さて、本件行政行為禁止仮処分申請事件については、原審たる東京高等裁判所は昭和二三年六月三〇日に言渡した控訴判決において、申請人高根正昭および同ユキの申請につき「被控訴人等(被申請人等)は別紙第二目録及び第四目録の土地の内八反歩の範囲についてはさきに右土地につきなした農地買収手続を再度続行し又は該農地の売渡手続をしてはならない」との仮処分をして、同人等の申請の一部を認容した。この判決に対し当事者双方は、これを不服として当裁判所に上告をして仮処分認容の当否を争つているのである。すなわち本件に於ては、民事訴訟法が行政事件について仮処分を許容していた時期に仮処分の申請ならびに仮処分を命じた判決がなされ、更らに該判決に対して上告があり、右申請事件の繋属中に仮処分を許容しない前記特例法が施行されるに至つたのである。そこで、本件については、前記特例法附則第二項本文が適用されるのか、または同項但書が適用されるのかが問題となるのである。そもそも、訴訟手続に関する法規が改正施行された場合においては、国家は裁判所をして新手続にしたがつて訴訟を遂行せしむる趣旨において法規を改正したのであるから、経過法規に特別の定めのない限り、その施行当時において裁判所に現に繋属する訴訟事件の手続についても、爾後すべて新法の規定するところに従うのが原則であると云わなければならない。前記特例法附則第二項本文は、特例法がその施行前に生じた事項にも適用されることを明らかにした趣旨と解すべきである。ただ、この原則を無制限に適用して新法施行前に完結終了した訴訟行為について、すでに生じた旧法による効力までも否定することは、訴訟経済上適当ではないので、前記特例法附則第二項但書は前記のように民事訴訟法および昭和二二年法律第七五号によつて生じた効力を妨げない旨を規定したにすぎないのである。本件は、前記のように仮処分に関する控訴判決に対して上告の申立があり、事件がなお裁判所に繋属する間に前記特例法が施行されたのであつて、本件について仮処分が許容されるか否かは未解決の問題として上告審において争はれているのであるから、前記特例法附則第二項但書の適用を受ける場合ではなく、同項本文の適用ある場合に当り、もつぱら前記特例法の規定するところに従わなければならないのである。そして、特例法は前記のように行政庁の処分については仮処分に関する民事訴訟法の規定を適用しない旨を明かにしているのであるから、本件について仮処分を許容することは法律の禁止するところと云わねばならない。されば、原審が本件につき申請人高根正昭および同ユキの申請の一部を容れて前記のような仮処分を為し、又第一審が本件申請を理由なしとしてこれを却下したのは、共に行政事件につき仮処分を禁止する前記特例法の規定に違背することに帰着するので当審においては民事訴訟法第四〇八条第二号に従い、原判決及び第一審判決を破毀して本件仮処分の申請を不適法として却下すべきものとし、訴訟費用の負担については同法第九六条第八九条第九〇条を適用して主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見によるものである。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上登 裁判官 栗山茂 裁判官 真野毅 裁判官 島 保 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介)

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